殺処分
ある地方自治体の保健所である。
犬たちが例によって1週間の檻に入れられている。
1日ずつ隣の檻に移され
最後の檻からはまず廊下に出され
廊下の突き当たりのリフトに乗せられ
ガス室に送られる。
全て電動で、スイッチひとつで済むようになっている。
係員の人たちは全員獣医さんだった。
動物を助けるために獣医になったのに、
殺すためのスイッチを押すなんて、皮肉なものだ。
インタビューに応じた獣医さんは疲れ切った顔をしていた。
その犬はとてもおとなしかった。
廊下に出されたとき自らリフトに向かって歩いた。
うなだれて、まっすぐ歩いていった。
リフトに乗り、座ったままじっと床を見つめていた。
その犬は明らかにわかっていた。
これから自分は死ぬのだということを。
諦めきったうつろな目をしていた。
檻の中の犬たちは、大半が人に慣れている。
人を見るとしっぽを振って近づいてくる。
人に飼われ、可愛がられ、愛され、
人に従い、人を慰め、やがて邪魔にされ、捨てられ、殺される。
その一方で毎日のようにペットショップで
大量の仔犬が買われていく。
大量生産大量消費のぬいぐるみのように。
毎日毎日日本中で
大量の犬や猫が殺されていく。
保健所等で殺処分される犬は
年間数万頭にのぼるという。
ねえ、ペットショップで高価な仔犬を買う前に
保健所に行ってみてくれないかな。
死を待つだけの仔犬がいるんだけど。
あと数日で殺される仔犬がいるんだけど。
人がその内側にもつ地獄の
ひとつのあらわれでもあるような気がする。
殺処分。
いやな言葉だ。
処分、なんだ。
いらないから、命を、処分するんだ。