怒れる神々の写真
ある夜、母が青い顔をして
とんでもないものを見た、と
話し始めました。
当時、母は化粧品店を営んでいました。
そこでよくある写真現像の仲介もしていました。
ある日、ご近所のIさんがフィルムを持って来ました。
もしかしたら何も写っていないかも知れない、と言いながら。
数日後、写真を取りに来たIさんは、
母に一緒に見て欲しいと頼みました。
さてそこに写っていたものは、
母には信じられないものばかりだったのです。
背景は写っているのに、中が真っ暗な祠。
祠の後ろから覗いている弁財天のような衣装の女性。
神殿の屋根の辺りで怒り狂う竜神。
飾りのついた馬に乗った神人のような男。
それはもうばかばかしいほど非現実的な写真、写真。
びっくりした母、Iさんはなるほどと納得。
その日Iさんは不思議な夢を見ました。
氏神さまの境内で写真を撮りまくっている夢。
早朝目覚めたIさんは、これは何かあると思い
カメラをつかんで氏神さまにすっとんで行きました。
鳥居を一歩入ったところで、突然金縛りに。
全く身動きが出来なくなったと言います。
ところが自分の意志とは関係なく、足が歩きます。
この神社には祠がいっぱいあります。
そのひとつひとつの前まで連れていかれます。
そして、レンズキャップがついたままのカメラの
シャッターが勝手に下り、フイルムが勝手に巻かれていきます。
もちろん彼女は触ってもいない。
フイルムを使いきったところで金縛りが解け、
彼女は解放されました。その足で母の店へ。
当然何も写っているはずはなかったのですが。
Iさんは写真をもってもう一度神社に行きました。
神主さんに見せるためです。
最近来たばかりの若い神主さんは、ああなるほどと
すっかり納得した様子。
ここに長い間いた前の神主さんは、どうやら
ちゃんと仕事をしていなかったようなのです。
毎朝祝詞をあげるとき、目を閉じると
怒り狂う竜神が現れて、恐ろしくてしょうがない、
なぜこんなに荒れているのか、と悩んでいたそうです。
写真を見てその理由がわかったと言います。
ここにあったお堀を埋めてしまってはいけなかったのに、
ああこの祠には御霊が入っていない、などなど。
この人は大変な所に赴任してきた訳です。
母も氏子のひとりです。
これは大変だと思った彼女は、怒りを静めてもらおうと
翌朝からお百度まいりを始めました。
数十日たったころから、パンを持っていくようになりました。
なんでも、ものすごい数の鳩がやってきて
歩けないくらいだと言うのです、で、パンをやるのだと。
毎日毎日そんなことを言うので、ある日私は
母より少しだけ早く神社に行ってみました。
ところが、鳩なんて影も形もありません。
母はそんなはずはない、と言います。
今日なんて、何処からともなく真っ白な
仔犬が現れて、ずーっとついてきた。
で、神社に入る直前にふっといなくなった。
あんたには(私のこと)信仰心のかけらもないから
鳩が見えないんだ、とまで言います。
今では、その神社から遠く離れたところに
住んでいるので、それからどうなったのか
知る由もないのですが、きっとあの神主さんが
ちゃんと静めてくれたことでしょう、
怒れる神々を。
誰かさんの言葉じゃないけど
日本は神の国、なんでしょうかね。
いつか訪ねてみようと思います。
私も氏子のひとりだったのですから。
★大木 理紗